短編:イモムシの恋

物語:イモムシの恋

創作:おねこ。


 ある日、一匹のイモムシが恋をしました。

 その相手は一人の人間。

 イモムシは、何度も何度もアタックしようと、女の子の前に姿を表しましたが…

 女の子は、イモムシの姿を見る度に、悲鳴をあげて逃げて行きました。

 イモムシは、思いました。

「どうして逃げるの??

 僕、君には何もしていないよ?」

 だけど、その言葉通じず……

 その思いも通じず……

 イモムシは、どうすればこの思いが通じるか悩みました。

 ある時は、寝ている時に、そっと近付き。

 ある時は、レタスの隙間から姿を現し。

 どんな風にやっても……

 どんなことをやっても……

 何度やっても、女の子は悲鳴をあげて逃げて行きます。

  出方が悪いのかな?

  努力が足りないからかな?

 そう思い、何度も何度も挑戦しました。

 だけど、その度に失敗しました。

 ある日、イモムシは動かなくなりました。

 どうすれば、あの子に振り向いてもらえるのだろう……

 イモムシは、考えて考えて考えて動かなくなりました。

 すると1匹の美しい蝶がイモムシの近くに飛んで来ました。

「どうすれば、君みたいに美しくなれるの?」

 蝶はイモムシの質問に答えました。

「大人になれば、綺麗になれるよ」

 イモムシは、その答えに喜び早く大人になる為に、いっぱいご飯を食べました。

 いっぱい食べて、いっぱい動いてまた食べて、イモムシは大きく大きくなっていきました。

 そして、暫くするとイモムシは動かなくなりました。

 恋したあの子に会うために。

 恋したあの子の笑顔を見たいから

 いっぱい食べていっぱい大きくなったイモムシはサナギになりました。

 サナギになったイモムシは毎日毎日夢を見ました。

 笑顔で迎えてくれる女の子と遊ぶ自分。

 その夢は楽しく毎日、毎日いつ蝶になれるのか・・・

 楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。

 やがて、イモムシは体を大きくくねらせ、大きく背伸びをしました。

 ピリピリピリ。

 背中の皮が破れる音が聞こえました。

 とてもとても窮屈で、イモムシはもう一度大きく手を伸ばしてみました。

 ピリピリピリ。

 体が少し楽になりました。

 そして、背筋を大きく伸ばすと、サナギの中か白く小さな羽が広がりました。

 でも、羽がぬれていてイモムシは、まだ空を飛べませんでした。

 それでもイモムシは、空を飛ぼうと必死で必死で羽を動かしました。

 やがて、羽が乾くとイモムシは、羽を上手く動かせるようになりました。

 大きく広がった白い羽に二つの斑点がある綺麗なモンシロチョウになりました。

 モンシロチョウとなったイモムシは、あの女の子に会うために必死で空を飛びました。

 でも、あの女の子は見つかりません。

 モンシロチョウは、それでも女の子を捜しました。

 次の日も次の日も次の日も。

 その女の子と遊ぶ夢を見ながら……

 毎日毎日探したけど見つかりません。

 やがてモンシロチョウは動けなくなりました。

 体を小さくして、モンシロチョウは涙を流しました。

「どうして会えないんだろう?

 ボク、頑張って蝶になったんだよ」

 モンシロチョウは眠くなり、ゆっくりと羽を落として目を閉じました。

「あー。かわいそう!」

 その声と共に、モンシロチョウの体は、ゆっくりと浮きました。

 モンシロチョウは眠い目を頑張って開けました。

 するとそこには、会いたかったあの女の子がいました。

 女の子は、じっとモンシロチョウの事を見ていました。

「あ……会いたかったよ。」

 モンシロチョウは、そう思いましたが眠くて眠くて仕方ありませんでした。

 動けなくなりピクピクと体を震わせるモンシロチョウの姿を見て女の子は泣いてしまいました。

 涙がモンシロチョウの額に落ちました。

 その涙の味は、甘くとても切ない感じがしました。

 イモムシの時、「キモチワルイ」と泣かれた時とは違った感じがしました。

 ナカナイデ、ボクガミタカッタノハナミダジャナインダ

 モンシロチョウは、最後の力を振り絞って羽を羽ばたけました。

 大きく大きく羽ばたくその姿を見て、女の子は涙を流すのを止め笑顔になりました。

 ヨカッタ、ヤットエガオガミレタ。

 モンシロチョウはフラフラと空を舞い。

 女の子の姿が見えなくなるまで飛びました。

 モンシロチョウは、一生懸命羽を動かし揺ら揺らと揺ら揺らと飛びました。

 大きな風が、ヒューと吹くとモンシロチョウはその風に流され空高く空高く飛んでいきました。

 最後に舐めた、甘く切ない味を思い出しながらモンシロチョウは空高く空高く飛んでいきました。

 おわり

人生に悩む猫の住処-すみか-

流れるままに。 気まぐれにお話を書いています。

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