サンタクロース捕獲大作戦
物語:サンタクロース捕獲大作戦
作:おねこ。
2021年12月5日
聡くんにはお父さんもお母さんもいません。
昨日事故で亡くなりました。
もうすぐクリスマス。
この日だけは聡くんはクリスマスを恨みました。
「みんなお父さんとお母さんと一緒にごはん……
いいなぁー」
白い箱に入ったお父さんとお母さん。
聡くんはお婆ちゃんがコンビニで買ってくれたおにぎりを食べています。
お婆ちゃんはお葬式の準備で忙しくて聡くんに構えません。
「……おにぎり、美味しい」
いつも食べるおにぎりより少し塩辛かったのです。
「お父さんとお母さんに会いたい」
そんなとき部屋のテレビからサンタクロースの話が流れました。
サンタクロースは色んな場所にトナカイに連れて行ってもらい地球を周るというものでした。
聡くんは思いました。
「トナカイさんにお父さんとお母さんのいる場所に連れて行ってもらえばいいんだ!」
そうして聡くんはサンタクロースを説得してトナカイにふたりがいる場所に連れて行ってもらうことを思いつきました。
聡くんが考えた捕獲方法はひとつ。
クリスマスは寝たふりをしてサンタクロースを待ちます。
クッキーとホットミルクと手紙を添えて……
聡くんはまだ小さいので文字を書くのが苦手です。
【お父さんとお母さんに会えますように】
ただそれだけを書きました。
そしてクリスマスの日を待ちました。
「……早くサンタさん来ないかな」
夜12時が過ぎたころ……
聡くんは眠ってしまいました。
「クッキーかい?これは……
牛乳も……?」
聡くんはそのお婆ちゃんの声に気づき目を覚まします。
「あれ?お婆ちゃん?」
「おやおや、起こしてしまったようだね」
お婆ちゃんは申し訳なさそうに笑いました。
「サンタさんは?」
「一足先に帰ってしまったよ」
「そうなんだ……
手紙、見てくれたかな」
「手紙?」
聡くんはお婆ちゃんに手書きの手紙を渡します。
お婆ちゃんは少しだけ涙ぐみました。
「お婆ちゃん?」
「お婆ちゃんがお父さんとお母さんに会わせてあげるよ」
「え?本当に?」
聡くんは嬉しくなりました。
「さぁお座り」
お婆ちゃんがそう言って聡くんをコタツに座るように言いました。
そしてDVDをデッキにセットしました。
「DVD?」
聡くんは首を傾げます。
「便利な世の中になったね。
こうして映像に残せるのはありがたいことだよ」
お婆ちゃんは、そういって再生ボタンを押します。
すると見知らぬ赤ちゃんのふたりの映像が映されます。
「誰?」
「このふたりはね、貴方のお父さんとお母さんだよ。
ふたりは同じ病院で同じ日に産まれたの」
お婆さんはそういって優しく聡くんに言いました。
「そうなんだ?」
「私と貴方のお父さんのお母さんも幼馴染だったのよ」
「ええ?初めて知った……
そういえば仲良しだよね」
次に映されたのは1歳の誕生日の映像。
さらに次に映されたのは2歳の誕生日。
誕生日・クリスマス・幼稚園や学校の入学式・卒業式。
イベントがなにかあるたびに録画された映像は聡くんの知らないふたりの思い出でした。
「さぁ、そろそろだよ」
聡くんは首を傾げます。
「そろそろ?」
「貴方が産まれるのよ」
そして次の瞬間。
赤ちゃんの泣き声が聞こえます。
「あ……」
そこに映ったのはシワだらけの赤ちゃん。
「覚えてないと思うけど。
この子が貴方よ」
お父さんが言います。
「がんばったな」
「なに泣いているのよ。
貴方、お父さんになるのよ」
「そうだな、泣いてたらダメだよな。
一生守り抜くぞ!」
「頼りにしてるぞ、お父さん」
ふたりの声に聡くんの目に涙が浮かびます。
「……お父さんだ、お母さんだ」
うつむく聡くんにお婆ちゃんが言いました。
「泣きなさい。
貴方全然泣いてなかったでしょう?」
「でも……」
「いいのよ、泣いても。
みんな泣いているのだから」
「うん」
聡くんは涙を流します。
そこから流れる映像は聡くんが知っている映像も沢山ありました。
懐かしい思い出。
優しい思い出。
そんな思い出が聡くんの頭の中に溢れます。
「大丈夫、聡くんのことはお婆ちゃんが守るからね」
「僕もお婆ちゃん守る」
「頼りにしてるわね」
「うん」
「これはお父さんとお母さんからの最後のプレゼントよ」
そういってお婆ちゃんが箱を聡くんに渡します。
「ありがとう」
聡くんはそういって箱を開けます。
「Nintendo Switchね」
「ソフトはポケモンだ」
「うん」
聡くんはふたりの仏壇の前に座ります。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
聡くんはそういって手を合わせました。
-おしまい-
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